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独立行政法人 国立病院機構 北海道医療センター
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がん診療科  泌尿器科

腎癌

 腎臓にできる癌には、腎の実質である尿細管が癌化増殖してできる腎癌と、腎盂や腎杯などの尿の流れ道の粘膜が癌化増殖してできる腎盂癌があり、その性質や治療法にそれぞれ違いがあります。ここでは腎癌について述べます。 

 わが国で2017年に腎癌と診断された人は約29,500人と推定されています。診断時の年齢は60歳以上が多いですが、稀に50歳以下の比較的若年者に腎癌が発見されることもあり、その場合は遺伝性疾患と関連している場合があります。

 腎癌と診断されて5年後に生存している人の割合(5年生存率)は約65%ですが、腎臓に限局している癌であれば約90%近く生存を見込めるのに対して進行癌だと10-15%程度となってしまいますので、進行する前に腎癌を発見するのがとても重要になります。

 

1)どんな症状がでますか?

 典型的な症状は、血尿やわき腹のしこり・痛みを自覚することです。しかし、これらの症状は癌が大きくなってから出現することが多く、最近では、腹部CT検査や超音波検査の普及に伴って無症状のまま偶然発見される患者さんが増えています。症状がでてから発見される腎癌では70%程度が進行癌であるのに対して無症状で偶然に発見される腎癌では進行癌が30%程度であることから、健康診断などで腹部超音波検査を受けることをお勧めしています。

2)どのように診断しますか?

 腎癌を診断する検査としては、CT(コンピュータ断層撮影)検査、超音波検査、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査が一般的です。画像検査での診断精度が高いので手術前の腫瘍針生検による病理診断は必要ありませんが、他の癌を除外するために生検を行うこともあります。確定診断は手術後の病理診断で行うことになります。

CT検査

 腎癌の診断で最も有用な検査です。造影剤を静脈から急速に注入し、短時間にたくさんの画像を撮影することで腎癌の性状・血液の動態をみる検査です。造影剤を使って確認される画像が特徴的なため高い精度で診断が可能です。しかし放射線を使用しますので多少の被爆リスクがあり何度も使用することができないことと、腎不全がある人や造影剤アレルギーがある人には使用できません。

超音波(エコー)検査

 探触子(プローブ)と呼ばれる小さな機械を皮膚に当ててこれから発する音波の反射波を画像処理する検査で、腎臓にできた腫瘍の診断を行うことが可能です。検査時の痛みもなく被爆しないため何度でも行え、健康診断などでよく利用されます。通常は超音波検査で腎癌を疑う場合にはCT検査を行い質的診断を行うことになります。

MRI検査

 MRI装置から発する磁場を利用して体内の水成分(水素原子)の動きを画像化する検査で癌の診断を行うことが可能です。CTのように放射線を使用しませんので被爆の心配はありませんが、体内に手術などで金属が入っている人には使用できないことがあります。しかし、CTで使用する造影剤にアレルギーがある人や多少の腎不全のある人にも使用可能な場合がありますのでCTに変わって診断に利用することがあります。

3)どのように治療をしますか?

 病気の拡がりによって治療方法が異なります。治療方法の決定に当たってはそれぞれの患者さんの病歴や身体状態を照らし合わせて、患者さんに最も利益があると思われる方法を検討することになります。

 一般的に、腎臓に限局する腎癌(臨床病期I期・II期)に対しては腎摘除術や腎部分切除術などの外科的切除が最も有用な治療方法となります。腎臓の周りに進展する腎癌(臨床病期III期)に対しては腎摘除術と静脈内腫瘍塞栓があればその摘除術が標準的治療となります。他の臓器に転移した腎癌(臨床病期IV期)の患者さんには、腎摘除術と少数の転移巣であれば転移巣摘除術を行うことがあります。転移巣摘除により症状緩和とともに一部の患者さんでは生存期間の延長をもたらすことがあります。

 外科的切除が困難な患者さんに対しては全身治療として薬物治療を検討することになります。

①外科的切除

 限局性の小さな腎癌に対して行う腎部分切除術は腫瘍を正常な腎組織から切り取る方法で、以前はなんらかの理由で腎臓が一つしかない患者さんや腎不全のある患者さんなどにのみ行っていましたが、現在ではそのような患者さんでなくても良い治療成績が得られているため標準的に行われている治療です。腎摘除術は大きな腎癌や、小さな腎癌でも技術的に腎部分切除術が困難な場合に対して行う治療です。

 これらの外科的切除は、従来のように開腹手術(おなかを切開して行う手術)のみでなく、おなかに小さな穴を開けて、先端にライトとカメラの付いた内視鏡を入れて手術する、腹腔鏡下手術も一般的になっています。出血が少なく、おなかを大きく切らないので創(きず)が目立たず、早く退院できるなどのメリットがあります。治療成績に関しては、従来の開腹手術と差がないといわれています。

②薬物治療

 進行性腎癌の薬物治療では、従来よりインターフェロンαやインターロイキン-2が用いられ、その後登場する分子標的薬以前は中心的な治療薬でした。10~20%の患者さんには有効ですので現在でも使用されています。さらに近年、腎癌の発癌や進展メカニズムが解明されつつあり、さまざまな治療薬が使用されるようになってきました。癌細胞内の細胞増殖や癌周囲の血管新生のシグナルを遮断する分子標的薬が進行性腎癌に対して保険承認されており、一部の患者さんには腫瘍を縮小し延命をもたらす効果が報告されています。また新たな免疫治療として免疫チェックポイント阻害薬も進行性腎癌に対して使用可能となり、分子標的薬との併用などでの治療効果が期待されています。

③放射線治療

 従来、放射線治療は腎癌には無効と考えられてきましたが、骨に転移している場合の疼痛や脳に転移している場合の神経症状の緩和として有効な場合があります。

放射線治療

膀胱癌

 わが国で2017年に膀胱癌と診断された人は、男性が約17,300人、女性が約5,700人で、男女比3:1と男性に比較的多い疾患です。喫煙と関連があり、喫煙者の発癌リスクは喫煙しない人の2~4倍高いと言われています。また染色工業で使用される芳香族アミンなどを扱う仕事の従事者も同様に高い発癌リスクがあると報告されています。

 膀胱癌は膀胱の粘膜に発生する癌で、病理組織学的には尿路上皮癌が約90%を占めます。膀胱癌の形態は大半が乳頭状ですが、絨毯のように裾野に広がるような形態をとる場合もあります。膀胱癌の70~80%は早期癌ですが、膀胱内の同一部位や膀胱内の他の部位に再発しやすいという特徴があり、膀胱癌の大きさや悪性度、数により再発率はさまざまですが一般的に5年以内に再発する確率は30~80%程度と報告されています。

1) どんな症状が出ますか?

 最も多い症状は見た目に赤い肉眼的血尿や肉眼的には赤くなくても顕微鏡で見ると血尿を示す顕微鏡的血尿です。その他の症状としては、膀胱刺激症状による頻尿や排尿痛・残尿感などの膀胱炎に似た症状で見つかる場合もあります。

2) どのように診断しますか?

 膀胱鏡を尿道より挿入して膀胱内を観察します。膀胱内の腫瘍を確認することは比較的容易です。その他に尿細胞診検査、造影剤を使用したCT検査やMRI検査を行うこともあります。

3) 治療方法について教えてください。

 膀胱の腫瘍が確認できたら治療と確定診断のため、また膀胱癌の進行度(深達度)と悪性度(異型度)を確認するために経尿道的膀胱腫瘍切除術を行います。この手術は麻酔をかけて行いますので入院が必要となります。

① 経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)

 尿道より切除鏡を挿入し先端の切除用ループに通電して腫瘍を切り取ります。尿道からの内視鏡下で行いますのでお腹を切る(開腹する)ことはありません。腫瘍は取り残すことなくできる限り完全に切除することを目指します。しかし、腫瘍が非常に大きい場合や多発している場合、絨毯状に広がり腫瘍の境界が分かりにくい場合や奥深く浸潤している場合には完全に取り切ることが出来ない場合があります。

切除した腫瘍を顕微鏡で検索して病理診断を行います。病理診断はその後の治療・管理方針を決定するために非常に重要です。

経尿道的膀胱腫瘍切除術

② 病理診断

 膀胱癌の90%以上が尿路上皮癌ですが、稀に扁平上皮癌、腺癌、小細胞癌などを認めることもあります。膀胱癌は膀胱粘膜から発生して進行すると奥深くへ浸潤することになります。この浸潤の程度を深達度と表現します。深達度は「腎盂・尿管・膀胱癌取扱い規約 第1版(日本泌尿器科学会・日本病理学会・日本医学放射線学会編)」で細かく分類されています。大きく分けると、非浸潤性尿路上皮癌、浸潤性尿路上皮癌、上皮内癌となります。非浸潤性尿路上皮癌は膀胱粘膜までに留まる癌です。浸潤性尿路上皮癌は膀胱平滑筋層の一歩手前の粘膜下層までに浸潤した癌と膀胱平滑筋層以下へ浸潤した筋層浸潤性癌に分かれます。上皮内癌は癌が平坦状に横方向へ拡がりを見せる癌です。病理診断において重要なのはこの深達度とともに異型度があります。異型度は癌細胞が正常の尿路上皮細胞と比較してどの程度かけ離れているかを表すもので、現在では低異型度と高異型度の2つに分けています。
この病理診断により次の治療・管理方針を決定することとなります。

③ TURBT後の治療・管理方針

非浸潤性で低異型度であった場合は、手術後の膀胱内再発はあるものの浸潤癌になるリスクは低いため、TURBTで完全にとりきれていると判断される場合はその後再発していないかを定期的に膀胱鏡検査で確認していくことになります。
 筋層には浸潤していないものの浸潤性であった場合や高異型度であった場合は、その後半数以上が膀胱内に再発し、15~20%はさらに深く浸潤するため、1回目のTURBTの約1か月後に2回目のTURBTを行うことをお勧めしています。2回目のTURBTで残存する癌がなかった場合はその後は定期的に膀胱鏡検査で再発の有無を確認していきます。
以上のような筋層に浸潤していない癌は膀胱癌全体の70~80%を占めます。一般的に筋層に浸潤していない癌で死亡に至ることは稀と考えてよいです。
 筋層浸潤癌であった場合は、膀胱壁外への浸潤の有無や他の臓器への転移・リンパ節転移の有無を確認するためにCT検査、MRI検査、骨シンチグラフィを行います。筋層浸潤癌の予後は不良で5年後に生存している率は約50%程度になってしまいます。よって遠隔転移がなく手術が可能な状態であるならば膀胱全摘除術をお勧めすることになります。ただし、膀胱の変わりとなる尿路変向術も同時に行う必要があります。
 上皮内癌は平坦状に広がる癌で肉眼的には確認できないこともあります。浸潤癌ではありませんが悪性度は高く進展する可能性があります。よって上皮内癌と診断された場合はBCG膀胱内注入療法を行い、効果が不十分な場合は膀胱全摘除術を検討しなければならない場合があります。

膀胱全摘除術

 男性では膀胱とともに前立腺を併せて摘除し、女性では子宮を併せて摘除します。癌の存在する部位によっては尿道も摘除することがあります。さらに術後の生存率向上を目指して通常、拡大リンパ節郭清術も行います。手術は開腹もしくは腹腔鏡下で、さらにロボット支援下で行うこともあります。

尿路変向術

 主な尿路変向術は尿管皮膚瘻造設術、回腸導管造設術、新膀胱造設術になります。
尿管皮膚瘻造設術は手術が簡便なため手術時間が短くてすみ、高齢者や合併症をもつ患者さんでできるだけ手術時間を短くしたい場合に選択されます。しかし、集尿袋を腹壁に装着する必要があること、瘻口部が狭窄しやすいため尿管カテーテルを留置しなければならない場合が多いと言われています。回腸導管造設術は最も多く行われている術式で、回腸の一部を遊離して尿管を吻合して尿の流れ道とし、腹壁にストーマを作製して固定します。尿管皮膚瘻のように腹壁での狭窄がないため尿管カテーテルを留置する必要はありませんが、同様に集尿袋を装着する必要があります。よって集尿袋の定期的な交換などストーマ管理・手技に習熟していただくことが重要となります。新膀胱造設術は腸管を利用して袋状に形成して尿管と尿道に吻合します。よって尿道摘除が必要のない患者さんに適応となり、自分の尿道があるためトイレで自排尿が可能です。しかし、袋状にした新膀胱は本物の膀胱のように排尿時に収縮しないため腹圧をかけながら骨盤底筋を緩めるという排尿方法を習得する必要があることと、残尿量が多くなることもあるため自分でカテーテルを挿入して残っている尿を排出する自己導尿の手技を習得していただく必要があります。また夜間にある程度の尿失禁がおこることがあるため尿パッドを装着しなければならない場合もあります。以上のようにどの尿路変向術にも一長一短があるため尿路変向術の術式を選択する際には、患者さんの身体状況、家庭の環境、社会的背景も考慮に入れて、患者さん本人、ご家族、医療関係者間で十分に意見を出し合い、最良と思われる方法を検討することが重要です。

④ 外科手術以外の治療

ⅰ)膀胱内薬液注入療法
抗がん剤膀胱内注入療法
 TURBT後の再発予防を目的に、適応のある患者さんにはTURBT後の即日に抗がん剤を尿道カテーテルを通して膀胱内に1回のみ注入することがあります。抗がん剤の全身投与ではありませんので問題となるような副作用はありません。また適応のある患者さんには、さらに数か月間から1年間程度の期間に定期的に抗がん剤の膀胱内注入を行う場合もあります。

BCG膀胱内注入療法

 TURBT後の再発や進展リスクの高い患者さんには、再発予防目的でBCGを尿道カテーテルを通して膀胱内に注入します。再発を抑制する効果は抗がん剤の膀胱内注入よりも高いと言われていますが、頻尿や排尿痛などの膀胱炎の症状が高頻度に起こります。導入療法として、通常週1回を計6回注入します。さらに1~2年間程度の維持療法を行うこともありますが、稀に委縮膀胱になることもありますので注意が必要です。

ⅱ)抗がん剤全身投与
 膀胱全摘除術後の治療成績の向上を目的に、膀胱全摘除術を行う前に抗がん剤の全身投与を補助的に行うことがありその効果が報告されています。また遠隔転移のある患者さんに抗がん剤の全身投与を行う場合がありますが、残念ながら十分に満足のいく効果が得られていないのが現状です。

ⅲ)放射線治療
 膀胱癌は放射線感受性が高いとは言えず単独治療では十分な効果を期待できませんが、膀胱全摘除術が必要であるもののさまざまな理由で行えない患者さんには化学療法を併用した放射線化学療法を行う場合があります。また骨転移などによる疼痛や血尿の軽減のために緩和治療として放射線治療を行うことがあります。

放射線治療

日本泌尿器科学会・日本病理学会・日本医学放射線学会編
「腎盂・尿管・膀胱癌取扱い規約 2011年4月(第1版)」(金原出版)より作成

前立腺癌

 わが国で2019年に新たに前立腺癌と診断される人は約78,500人で、男性の中で罹患する癌の第4位と推定されています。罹患する率はこの10年間でやや鈍化傾向にあるものの20年前の約5倍程度になると考えられています。また2019年に前立腺癌で死亡する人は約12,600人で、男性の中で第6位と推定されており、10年前までの上昇をピークに横ばいからやや減少する傾向にあります。初診から5年後に生存している率は約99%とすべての癌の中で第1位で非常に予後のいい癌であることがわかります。とは言うもののすでに転移してしまっている場合の5年後の生存している率は50%程度に下がってしまうため早期に発見することがやはり重要となります。

1) どんな症状が出ますか?

 早期の場合はほとんど症状がでません。進行して初めておしっこが出づらくなったり、腰痛や四肢の痛みなどが出てきます。よって症状が出る前に前立腺癌を見つけることがとても重要です。

2)どのように診断しますか?

 現在、前立腺癌の大半は血液の中の前立腺特異抗原(PSA)の値を調べることによって発見されています。PSAは前立腺から精液中に分泌される酵素ですが、前立腺癌になると前立腺内の細胞が破壊されて血液中に多く流出するために血液中のPSAの値が高値になります。しかし、前立腺肥大症の患者さんでも30~50%に中等度のPSAの値の上昇が認められ、そのほか前立腺に炎症があったり、前立腺の機械的刺激などでも血液中のPSAの値が上昇するため、PSA値の上昇のみから前立腺癌と診断することはできません。よって直腸診を行い前立腺に異常なしこりを触れないかを調べます。確定診断のために主に直腸を通して前立腺に針を刺入して前立腺の組織を採取する針生検を施行して病理診断を行います。針生検は麻酔をかけて行いますので当院では1泊入院していただいています。              
 病理診断は前立腺癌の構造と正常な前立腺構造との比較により1~5に分類しさらにスコア化することにより悪性度を診断します。このスコア分類は癌の進行度と相関することが分かっており、PSAの値、画像検査による進行度を併せることで予後の予測に利用することが可能です。

3)治療について教えてください

 病理診断とPSAの値、画像検査の結果により、超低リスク群、低リスク群、中リスク群、高リスク群に分類し、さらに患者さんの合併症の有無、年齢を併せて可能な治療方法を患者さんにご説明し選択していただくことになります。 基本的には、前立腺の中に限局する癌では、手術や放射線治療などの癌を根治するための治療、前立腺の外に広がる癌では、ホルモン治療、放射線治療、抗がん化学療法などの癌の増殖を抑える治療、超低リスクや低リスクの癌などの一部の患者さんでは無治療での経過観察も選択の一つとなります。ここで重要なのはこれらの治療法の選択に際して患者さんの年齢と患者さんの持つ合併症の有無を考慮することです。なぜなら、一般的に、前立腺癌は病勢の進行が遅く予後の良い癌が多いため、その治療法を選択することが患者さんの利益になるか過剰な治療にならないかを検討する必要があるからです。

① 手術

 前立腺を全摘除することで根治することを目指します。前立腺と精嚢を摘除しますのでその内部にある尿道も併せて摘除し膀胱と尿道を吻合することになります。所属リンパ節郭清術を併せて行う場合もあります。手術により起こりうる合併症は、尿失禁、勃起不全、頻度は少ないですが尿道狭窄などです。お腹を開いて(開腹して)行う場合もありますが、現在ではロボット支援下でお腹に数本の内視鏡を挿入して行う方法が一般的になりつつあります。この方法は開腹に遜色ない術後成績が報告されており、体への侵襲が少なく入院期間も短かくてすむというメリットがあります。

② 放射線治療

 体外から前立腺に放射線を照射する外照射治療と前立腺内に会陰を介して放射線シードを埋め込む密封小線源治療があります。

 外照射は現在では強度変調放射線治療(IMRT)という照射方法で高線量を前立腺に集中して安全に照射できるようになったため癌の局所制御が可能となり、前立腺全摘除術に匹敵する良い治療成績が収められています。しかし、毎日短時間ずつ照射するため治療を完了するまで1か月半近くかかります。照射による有害事象は頻尿・血尿などの放射線性膀胱炎や下痢・血便などの放射線性直腸炎を頻度は少ないものの認めることがあります。

 密封小線源治療は小線量率の線源カプセルを前立腺内に50~100個埋め込むこむもので体内の他の組織や体外への影響はなく放射線も徐々に弱まり1年後にはほぼゼロになります。麻酔をかけて行いますので3-4日間の入院が必要になります。有害事象としては頻尿や排尿障害を認めることがあります。以上の放射線治療は機器を有する放射線治療科のある病院へ紹介することとなります。さらに前立腺癌のリスク分類に応じてこれら放射線治療にホルモン治療を3か月から3年間程度併用する場合があり、治療成績の向上が望めます。

③ ホルモン治療

 前立腺癌の多くは精巣や副腎から分泌されている男性ホルモンの影響を受けて増殖していますので、男性ホルモンの分泌を遮断することにより癌の増殖を抑制する治療です。主としてすでに転移のある患者さんに対して病巣の縮小や進行の抑制を目的に行います。または放射線治療の併用療法として行う場合があります。男性ホルモンの分泌を遮断することを去勢といい、両方の精巣を外科的に摘除する外科的去勢術と注射薬を定期的に投与する内科的去勢術があります。さらに前立腺内で男性ホルモンを遮断する内服薬もあります。一般的にホルモン治療は効果がありますがいつまでも効果が持続するわけではなくだんだん効果が弱まることがあります。ホルモン治療で去勢状態を保っているのに前立腺癌が進行するようになった癌を去勢抵抗性前立腺癌といいます。ホルモン治療に感受性を持っていた癌細胞がホルモン治療に抵抗性を持った癌細胞へ体質変換するためと考えられています。このような去勢抵抗性前立腺癌に対しては新規のホルモン治療薬が保険認可され治療に使われています。ホルモン治療の有害事象は、ほてり感、倦怠感、体脂肪増加、長期投与では骨粗しょう症、心血管系疾患の発症リスクの上昇などがあります。

④ 抗がん化学療法

 ホルモン治療に効果がない患者さんに対して抗がん剤の投与が有効な場合があり、わが国では2種類の抗がん剤が保険認可され治療に使われています。有害事象として血液中の血球成分が減少する骨髄抑制がほぼ必発で感染症などの発症に注意する必要があります。

⑤ 経過観察

 治療管理方法として、この経過観察という選択肢があることが前立腺癌のひとつの特徴といえます。この経過観察という言葉ですが、2つに分けて考えるべきで、一つ目は積極的な経過観察(積極的サーベイランス)です。先ほど述べたとおり、前立腺癌の多くは進行が遅い癌で、特に超低リスク癌や低リスク癌の一部にはすぐに治療を行わなくても患者さんが不利益を被らない癌の場合があります。つまり、根治的な治療を先延ばしにすることでその治療を受けることによって被る不利益な期間をできるだけ短くするという方針です。もちろん、治療を先延ばしにしてもその患者さんが不利益を被らないということが前提条件になります。つまりそのくらい進行の遅い癌が前立腺癌の中には存在するためです。しかし、厳重なフォローが必要で、PSAの上昇などの進行の兆しが万が一見えた場合は精査の上、根治治療を開始することになります。この積極的サーベイランスを行い最終的に治療へ移行する人は約30%程度と考えられています。2つ目の経過観察は、高齢者や生命に影響を及ぼす合併症を持っていて前立腺癌よりもそちらの方が生命予後に影響すると思われる患者さんです。もし前立腺癌による症状がなければ治療をせず症状が出現した時に治療を開始することにより治療を受けることにより被る不利益、生活の質の低下を回避するという考え方です。これら積極的サーベイランスや経過観察の方針は患者さんやご家族と医師が十分に話しあい、相互理解した上で決定することが非常に重要です。