NMOSDの患者さんが新型コロナウイルスワクチンを接種すべきかどうかお悩みなのではないかと思います。この点に関しては我々も情報収集の段階ですが、今回は2021年1月29日にGuthy-Jackson Charitable Foundation*1という国際団体の主催で行われた、カリフォルニア大学サンフランシスコ校のYeaman先生によるweb講演会*2のワクチンに関する要旨をご紹介します。なお、同団体はワクチン接種に関する推奨を示すためでは無く、NMOSD患者さんが主治医と相談する際の予備知識として情報を提供しているとのことです。
現在使用されている、または開発中の新型コロナウイルスワクチンの主なものにmRNAワクチンとウイルスワクチンがあります。ファイザー社/ビオンテック社およびモデルナ社のmRNAワクチンと、アストラゼネカ社のウイルスワクチンに関しては米国食品医薬品庁、英国国民保健サービス含む各国の公的機関がその有効性と安全性を支持しています。この対象者の中には免疫抑制状態の方も含まれており、理論的には免疫を抑制する治療を受けているNMOSD患者さんにも使用可能です。なお、アストラゼネカ社のウイルスワクチンに関しては65歳を超える方への接種には注意が必要であるとドイツから報告されています。また、一般的に免疫抑制状態の方にはウイルスワクチンの接種は注意が必要とされています。妊婦に関しては十分な情報はありませんが、新型コロナウイルス感染症の重症化リスクの高い方は接種が推奨されています。小児/若年者に関しては、ファイザー社/ビオンテック社のmRNAワクチンが、17歳以上の被験者においてその有用性が示されていますが、他のワクチンに関しては十分な情報はありません。他の合併症がある方に関しても、ファイザー社/ビオンテック社、モデルナ社のmRNAワクチン、アストラゼネカ社のウイルスワクチンは安全で有効であろうとされています。
免疫を抑制する治療はいずれもワクチンの作用に影響する可能性がありますが、この影響には個人差があるようです。他のワクチンにおける研究から、抗補体C5抗体(ソリリス®)、抗IL-6受容体抗体(エンスプリング®)はワクチンの作用にわずかしか影響をおよぼさないと考えられています。ステロイド、アザチオプリン、メソトレキセート、ミコフェノール酸モフェチルに関してはワクチンの作用を中等度低下させることが知られています。抗CD20抗体*3、抗CD19抗体*3はB細胞が関与したワクチンの反応を低下させることがわかっていますが、T細胞が関与したワクチンの反応は保たれるため、これら治療を受けている方にもワクチン接種を勧める十分な根拠はあると言えます。可能であれば免疫抑制治療を開始する前にワクチン接種を勧めますが、たとえ免疫抑制治療を受けていても、NMOSD患者さんが新型コロナウイルスワクチンを接種する意義は十分あります。
*講演では触れられていませんが、一般的にワクチン接種によりNMOSDの再発が誘発されたと疑われるケースが知られています。新型コロナウイルスワクチンに関してはこのリスクの有無、程度は明らかではありません。ワクチンを接種すべきかどうかは個々の患者さんごとに慎重な判断が必要です。主治医とご相談ください。
北海道医療センター
神経免疫疾患センター
当センターではそれぞれの疾患の診療に精通した神経内科専門医が中心となって診療に従事します。 加えて眼科、呼吸器外科、泌尿器科、精神科、リハビリテーション科など他の診療科の医師も加わり、看護師、薬剤師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚療法士、医療ソーシャルワーカー、 治験コーディネーターなど多くの職種が協力して患者様の療養をサポートいたします。