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【第10回】パーキンソン病と運動-うごく・うごかす・うごける

 サロン・ド・PD 第10回は、「パーキンソン病と運動-うごく・うごかす・うごける」という題でお届けします。

 「うごく・うごかす・うごける」とは、「動けば動かせて動ける」とか「動かせば動けて動く」という円環をなしているということで、当然のこととして納得していただけると思います。薬物治療は、この円環構造の回転に勢いをつけることです。

「うごく」つまり、日常生活の中で身体を動かすことの重要性を示すいくつもの研究があります。仕事、家事、趣味、ショッピング、旅行、なんでもいいです。家でじっとしていないで、外に出ましょう。そのための工夫をみなさんで考えましょう。

 運動療法つまりリハビリについて網羅的に情報を収集してまとめた報告があり、筋力トレーニングも有酸素運動も、バランストレーニング、歩行トレーニング、太極拳、ダンス、いずれもパーキンソン病患者さんの運動能力の向上・維持に有効であることが明らかにされています。Lee-Silverman Voice Treatment (LSVT)という運動療法は短期集中的に運動するプログラムです。運動を自覚的に大きく行うことが、特徴の一つです。

 いつ始めよう?については、診断がついたら即刻!ということになります。そして、けっこう頑張るほど運動機能の維持に有効という報告があります。

 1年ごとに集中して運動療法を実施したらどうなのかという研究では、短期集中的な運動療法を、間欠的ではあっても続けて実施することの重要性を示唆する結果でした。

 パーキンソン病にとって運動が効果的だということのメカニズムについては動物実験から推測することが可能です。脳内の神経栄養因子の産生が運動グループで増加していることが分かりました。

 運動は薬だ!そして、うごく、うごかすは、楽しく!太極拳、ボクシングも有効性が示唆されています。タンゴがいいという報告もあります。

 パーキンソン病の病気のステージにあわせた目標と治療介入について述べます。パーキンソン病の運動療法では、客観的・具体的目標を設定し、患者さんと家族、医療者が一緒にその目標のクリアに向けてチームワークで頑張ることが必要です。パーキンソン病の早期には、進行抑制を期待し、進行期には能力維持が中心になります。安全に実施できるということも重要になってきます。

 運動の効果は非運動症状の改善にもつながります。気分障害、認知機能低下、睡眠障害は、いずれもパーキンソン病患者さんのQOLを悪化させる大きな要因です。それらの改善が運動療法に期待できます。運動と認知機能については、多数の論文をまとめて分析した報告があり、運動が認知機能に良い効果をもたらすことが明らかになっています。

 運動は薬だ!したがって、早期診断のもと早期薬物治療開始は当然ながら、早期運動療法開始も必須です。

今後の展望と課題としては、

  1. インターネットを利用したリモート運動療法
    Telerehabilitationと云われます。コロナ禍により、大きく進んだ分野で、さらに発展が期待されます。
  2. デバイスの利用
    リズム刺激の発生はもちろん、指示・指導(インストラクション)を行うようなデバイスの開発が進んでいます。リズム刺激の発生では患者さんの状況に合わせて変化する工夫がされています。それを使うと歩行時、寄り添ってもらっているような感覚があるそうです。もちろん、評価、記録にもデバイスは有用で、それを遠隔医療で共有するということも可能です。
  3. 比較群のあるランダム化された多数例による長期前向き研究
    このような研究が、ステージごと、運動の種類ごとに実施されていくことが期待されます。そのデータが蓄積されれば、
  4. 運動療法の個別処方
    エビデンスに則った運動療法の個別処方が可能になります。

とにかく、運動は薬です。
いますぐ始めて、ずーっと続けましょう。

2022年1月21日
北海道医療センター
難病診療センター 菊地誠志


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