結核は未だに日本でも年間1万人以上が発病する感染症です。世界的には、2021年の統計では約1060万人が発病し、死因としては新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に次いで第2位の感染症となっています。
感染してから発病まで数ヶ月から数年(~数十年)と潜伏期間が長く、診断も難しいことが多いため発見が遅れることが少なくなく、集団感染が問題となることがあります。
当院では国立療養所の時代から結核医療に積極的に取り組んでおり、道央医療圏で少なくなった結核の入院治療が可能な医療機関として診療を行っております。
基本的に当院は結核の診断がついた場合に、他の医療機関からご紹介いただいて主に入院治療を行っておりますので、下記のような場合はかかりつけ医かお近くの呼吸器内科・呼吸器科にご相談下さい。
結核の情報については結核予防会ホームページ(https://www.jatahq.org/から、「結核とは」のタブをクリックしてください)もご参照下さい。
近年増加している感染症で、多くが肺に病気を起こします(肺非結核性抗酸菌症)。「非」結核性ということで、ヒトからヒトへの感染は通常ないと考えられていますが、結核菌と同じグループの抗酸菌が起こす病気であり、以前から結核専門医が診療に取り組んでおります。当院でも結核医療と同様に以前から診療に当たっており、道内では数少ない手術療法も手がけている施設の一つです。結核診療をしていない他院の呼吸器内科でも数多く診療されていますが、お困りの場合はセカンドオピニオン外来も行っておりますので現在担当の主治医にご相談下さい。
以下にQ&Aとしてよく質問される事柄についてお答えしていますので、ご参考にしていただければ幸いです(2023年8月版)。
抗酸菌の中で昔からよく知られている代表的(定型的)な菌は肺結核をはじめとする病気を引き起こす結核菌ですが、これ以外にも多くの種類(菌種)があります。結核菌以外の抗酸菌をまとめて「非結核性抗酸菌(NTM:non-tuberculous mycobacteriaもしくはnon-tuberculosis mycobacteria)」と呼んでいます。
注:くわしく言うとマイコバクテリウム属以外にも抗酸性を示す菌種はありますが(ノカルジア属など)、通常は抗酸菌=マイコバクテリウム属、とされます。
胸部レントゲン写真やCT検査で、非結核性抗酸菌症でよく見られるタイプの影が現れているかどうかも診断の重要な条件のひとつです。
MACについては血液検査(抗体検査)が利用できます。感度が100%ではないこと、他の菌種でも陽性となるものがあることなどから補助的な診断方法ではありますが、この検査で陽性となるとMAC症の可能性が高いと考えられます。
通常何かの病気によっておきている場合は「○○による気管支拡張」と表現することが多く、非結核性抗酸菌症の診断がついている場合はあまり「気管支拡張症」という表現は使いません。X線やCTでかなり非結核性抗酸菌症が疑わしいのに菌が捕まらないなど診断に至らない場合に、「今のところの病名は気管支拡張症」という表現をさせていただくことがあります。
全身倦怠感や体重減少も病気が進むと診られるようになります。最近は症状が見られないうちに健康診断の胸部レントゲンやCT検査の異常で発見される方も増えています。
進行の仕方もお一人お一人でかなり異なり、異常が見つかってから何年もほとんどそのままの方もいらっしゃいますし、数年のうちに徐々に進行して上記の様な症状が見られるようになる方もいらっしゃいます。一時的な悪化が見られても、特に何もしないで改善する場合もありますが、悪化が続く場合は治療の開始や追加が必要になることがあります。
しかし結核と比べるとクスリの効き目は今ひとつで、効果があっても最低2年くらい(痰から菌がなくなってから1年~1.5年以上)は治療を続けなければいけませんし、残念ながら再発も結核よりはるかに多いのが現状です。現在の所、肺のMAC症はふつうの肺炎やかぜのように「治してしまう」病気ではなく、高血圧や糖尿病のように「うまくつきあってゆく」病気に近いといえます。
再発した場合などで一番重要なクスリであるクラリスロマイシン(CAM)やアジスロマイシン(AZM)が効かなくなってしまった場合は代わりに通常の肺炎などでも使うニューキノロン系という抗菌薬を使うことがあります。また他の治療薬に影響を与えることが少ないリファブチン(RFB)をリファンピシンの代わりに使用する場合もあります。そのような治療が必要となった際は抗酸菌症治療に習熟した医師の診療を受けて下さい。
2021年の春に、従来までの治療で効果が乏しい方に対しての追加治療として吸入アミカシン(アリケイス®)療法が日本でも保険で使用できるようになりました。海外ではすでにガイドラインにも収載されている治療法で効果が期待されていますが、薬剤が高価なことや、専用の吸入機材が必要、吸入機材のお手入れに別に洗浄機等が必要となるなど使用できるまでにはいろいろな準備が必要となりますので担当医とご相談下さい。
他の治療法としては手術療法があります。クスリによる治療を開始して3~6ヶ月程度たっても病状の改善が見られなかったり、喀血(咳とともに血液をはく)や病気の部分に別な菌による肺炎、気管支炎を繰り返したりする場合、真菌(カビ)症を合併した場合などは原因となる病気の部分を取り去ってしまう事で症状に対する治療になるとともに肺の中の菌の量を減らしクスリを効きやすくする効果を期待して行われます。必ずしもすべての病気の部分を取り除いてしまうことを目的にしてはいませんので、病気が両方の肺など広い範囲にあっても手術を行うことはあります。また、病気の範囲が比較的狭くてすべて取り切れるように見えても見えないところに菌が潜んでいる可能性がありますので、せっかく手術してもほかの部分に再発する可能性もあり、必ず治る(根治する)という治療法ではありません。しかしクスリを数ヶ月使用しても十分な効果が得られず不都合な症状が続く場合は考える価値がある治療法です。
またクスリの副作用などで十分な治療ができない場合は標準的治療を行わなかったり治療を中止したりするのも一つの考え方です。とくに御高齢の方で多数のクスリの服用がむずかしい場合や、クスリの副作用のために食欲が落ちるなど場合は、無理をして治療を続けて栄養状態や健康状態の悪化をまねいてしまうよりは、むしろクスリをやめて十分な栄養をとり、健康状態を良好に保つほうが良い場合もあります。やはり、「うまくつきあっていく」病気といえます。
通常の治療薬を使用しない場合は慢性の気管支炎の一部などで使われるエリスロマイシン(EM:抗生物質ですが、少量使用することで痰を減らしたり、炎症を抑える効果があるとされています)や、漢方薬を使用することがあります。
*当院では専門的な漢方治療は行っておりません。微熱、全身倦怠感、悪心、食欲不振、肝臓障害、
血液障害(白血球減少、血小板減少=出血傾向)、発疹(かゆみ)、
手のこわばり、(尿、涙などに赤く色がつく)
エタンブトール(EB)
視力障害(多くはないが重要:使用中は定期的な眼科健診を受けて頂きます)、足のしびれ、肝臓障害、発疹(かゆみ)
ストレプトマイシン(SM)・アミカシン(AMK) ・カナマイシン(KM)
めまい(SM)、聴力障害(KM、AMK)、腎障害
クラリスロマイシン(CAM) アジスロマイシン(AZM)
胃部不快感、食欲不振、下痢、発疹、不整脈
最近日本で増えてきているアブセッサス菌を含め、その他の菌の場合は菌種により治療法がかなり異なり、また日本での発生が少ないことや健康保険で認められている薬が少ないため標準的な治療法が確立されていません。海外や日本における治療経験の報告を参考に治療を進めていく必要がありますので担当医とご相談ください。