低侵襲手術センター
子宮筋腫、卵巣腫瘍、子宮外妊娠、子宮体がん
婦人科の手術件数は2010年の開院当初から右肩あがりに延びており、2012年度から350件を超える件数となっています。特に内視鏡手術のしめる割合いは50%を超えており、2016年度は60%を超える症例数となっています。
当科では北海道医療センター開院後の2013年3月から「臍部単孔式腹腔鏡手術」「2孔式腹腔鏡手術」を順次導入しました。
低侵襲性と安全性を両立するため研究をおこなっており、「従来法(4孔式)」、「単孔式」「2孔式」の3手法のついて安全性、操作性、手術時間や摘出物重量などを比較検討し2011年からは「2孔式腹腔鏡手術」を中心に症例を重ねています。
低侵襲性と安全性、つまり患者様のからだにとってやさしい手術を常に心がけて診療に当たっています。
その2大柱が、①低侵襲腹腔鏡手術、②自己血輸血の積極的導入、以上の2つです。
腹腔鏡手術は、臍を中心にお腹の3〜4カ所の傷からカメラや鉗子を使って腫瘍を取り除く手術ですが、当科で行っている腹腔鏡手術は、臍に1カ所、その他下腹部横に3〜5mm程度の傷、計2カ所の小さな傷だけで行う、いわゆる2孔式手術をほぼ全ての腹腔鏡手術に適用しています。
数年前より臍1カ所のみの単孔式手術が行われるようになってきましたが、癒着している例への対処が難しかったり、臍の傷そのものが大きくなったりする影響で、術後の痛みが増す傾向にあったり、さまざまな問題点が出てきています。当科で行っている2孔式手術ではそれらの問題はすべて解決され、また古典的な3〜4孔式腹腔鏡手術と同等な手術成績を挙げているのみならず、傷が少ないため痛みや整容性にも優れ、患者様に好評をもって迎えられております。
また最近では卵巣腫瘍手術を中心に、臍を切ることなく、臍の周囲、いわゆる臍輪に2〜5mmの傷だけで行う臍にやさしい手術も行い、さらなる低侵襲化を目指しています。
2孔式による腹腔鏡下子宮全摘術
臍部切開創にラッププロテクター(開創器)を装着し、さらに蓋状のE・Z アクセス(差込口)をかぶせ、そこに腹腔鏡と鉗子を挿入する5mm径のトロカール(筒)を穿刺します。次に右下腹部に小さく切開創を作り、5mm径のトロカール1本を挿入します。
モニタで拡大視された臓器を確認しながら、電気メスや鉗子を使って、子宮周辺の剥離や切離を行い子宮を摘出、腟を縫合します。次にラッププロテクターを装着した臍部創から子宮と筋腫をつまみ上げ、メスの先で細切しながら回収します。最後に膀胱鏡で尿路損傷がないことを確認し、閉腹します。
この手術のメリットは、手術器具の操作性が良好なことです。傷口は臍部以外は1カ所で整容面に優れ、創痛が抑えられ、経過とともに極めて目立たなくなります。
輸血には同種血輸血と自己血輸血の2種類の方法があります。同種血輸血は献血者の血液から作られた血液製剤を使用するため、感染や副作用のリスクがあります、患者本人の血液を使用する自己血輸血では極めて低リスクです。
手術において、特にがんを中心とした悪性腫瘍の手術においては、腫瘍のひろがりや癒着、大きさやもろさ等々の影響で出血量の増加に伴い、術中や術後に輸血しなければならない症例が少なからずあります。輸血を実施した場合、非常にまれですが発熱や感染、じんましんが出たりショック状態におちいってしまうこともあります。
当科では自己血輸血を推奨し、安全で適切に実施する体制を整えています。
それにより良性腫瘍の手術での輸血はほぼ0に、悪性腫瘍の手術でも可能な限り輸血を行わずに手術しています。つまり他人の血液をできるだけ使わない手術を行うという意味からも、低侵襲な手術を実践していると言えます。
宗教的な理由から、同種血輸血だけでなく自己血輸血の「貯血式」もできない場合は、医療機関によっては手術の実施が難しくなります。
当センターでは、貯血式ができない場合も安全に手術を実施するための独自マニュアルを作成し、術中出血量を最小限に抑えながら、自己血輸血の「希釈式」「回収式」で手術を行う技術と経験を積み上げてきました。
新病院に移行してから2017年3月までの当科の手術数は2750 件ですが、そのうち30件が、「宗教上の理由で同種血輸血、貯血式自己血輸血ができない症例」です。良性悪性を問わず積極的に手術治療を実施し、良好な結果を得ています。
特にエホバの証人の方々を中心とする輸血拒否の方々、また信条的に輸血を受け入れない方々の手術も積極的に受け入れており、それぞれの方々の希望に寄り添った手術を行うことを常に心がけております。
婦人科では令和6年10月より子宮全摘術、子宮体がん、骨盤臓器脱のダビンチ手術を導入します。
2024年10月から手術支援ロボットDa Vinciが導入されます。これまでも北海道医療センター婦人科では2孔式腹腔鏡手術をはじめとする、患者様の身体に低侵襲な手術を行ってきましたが、Da Vinciの導入によりさらに患者様への負担が少なく、疾患の根治性が高い手術が実現します。
婦人科において保険適応となっている手術は3つあり、良性疾患に対する子宮全摘術、子宮体がんに対する悪性腫瘍手術、そして骨盤臓器脱に対する仙骨腟固定術です。ロボット支援手術では一見の腹部の傷は増えますが(腹腔鏡:2-3か所、ロボット:4-5か所)、腹腔鏡の拡大視野をさらに進化させた3D(立体視野)や、深部到達能の向上、より精密な操作が可能となり手ブレを防止するロボットアームなどにより、摘出すべき病変を確実に切除しつつも、重要臓器や周囲血管、神経などを極力損傷しない、より「お腹の中で低侵襲」な手術が行われます。
もちろんすべての患者様にロボット支援手術を行うわけではなく、腹腔鏡手術でも治療成績に遜色のないケースにはこれまでの傷の少ない2孔式腹腔鏡手術を提案したり、腹部に傷のまったくない経腟腹腔鏡手術(vNOTES手術)などを使い分け、それぞれの患者様に最もよい手術の選択肢を提案できるようにいたします。