MOG抗体関連疾患(MOG antibody-associated disease、以下MOGAD)は、免疫の異常により中枢神経系に炎症が起こる神経免疫疾患の一つです。近年、血液や髄液中のMOG抗体というタンパク質の有無を調べる検査が普及し、これまで多発性硬化症や視神経脊髄炎と考えられていた患者さんの一部が、MOGADと診断されるようになってきました。加えて、主に小児に発症する急性散在性脳脊髄炎の患者さんの一部にもMOG抗体が検出されることがわかり、これらの患者さんもMOGADに含まれるようになりました。
MOGADでは、炎症が起こる場所によって症状が異なります。代表的なのは視神経炎で、目の痛み、急な視力低下、色が見えにくいといった症状がみられます。脊髄炎では、手足のしびれや脱力、歩きにくさ、排尿・排便の障害が起こることがあります。脳に炎症が及ぶ場合には、頭痛、発熱、けいれん、意識障害、ふらつきなどを伴うこともあります。小児では、急性散在性脳脊髄炎として発症することがあり、成人とは症状の現れ方が異なる場合があります。MOGADは一度だけ発症する場合もあれば、再発を繰り返す場合もあり、経過には個人差があります。
MOGADの診断は、発症からの経過、神経診察、MRI検査、血液検査、髄液検査などの結果をもとに総合的に行います。特に重要なのが、血液や髄液中にMOG抗体があるかどうかを調べることです。ただし、現時点ではこの検査は保険適用となっていません。そのため、院外の研究機関に血液や髄液を送付して検査を行っており、結果が判明するまでに数週間かかります。当院では、MOGADが疑われる患者さんに対してMOG抗体検査を積極的に行い、診断や治療方針の検討に役立てています。
MOGADの治療は、「再発時の治療」「再発を予防する治療」「残存した症状に対する対症療法・リハビリテーション」に分かれます。現在、日本ではMOGADに対して保険適用のある治療はありませんが、再発時にはステロイドの点滴を3〜5日間連続で行う治療が一般的です(ステロイドパルス治療)。ステロイドパルス治療の効果が不十分な場合や、症状が重い場合には、血液浄化療法や免疫グロブリン治療を行うことがあります。再発による後遺症をできるだけ軽減するためには、早期に治療を開始することが重要です。当院では、ステロイドパルス治療、血液浄化療法、免疫グロブリン治療とも速やかに開始できる体制を整えています。
MOGADは、初発の1回で経過する場合と、再発を繰り返す場合があります。報告によって幅はありますが、3〜5割の患者さんが再発性の経過をとるとされています。1回限りで経過する患者さんでは再発予防治療は不要ですが、どの患者さんがその後再発するかを現時点で正確に予測することは困難です。そのため、2023年に発表された日本の多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドラインでは、基本的にはMOGAD患者さんに再発予防治療を行うことが推奨されています。ただし、再発予防治療を開始した後も経過を慎重にみながら、再発がない場合には治療薬の減量や中止を検討することも記載されています。一方、再発を起こした患者さんでは、その後さらに再発する可能性があり、ガイドラインでも再発予防治療が勧められています。
現在、日本ではMOGADに対して保険適用のある治療薬はありませんが、基本的にはステロイド単独、または免疫抑制薬を併用して治療を開始します。その後は経過をみながら少しずつステロイドを減量し、中止を目指すことが一般的です。こうした治療を行っても再発する場合や、ステロイドや免疫抑制薬を副作用などで使用できない場合には、他の神経免疫疾患で用いられている薬剤を使用することもあります。
MOGADの患者さんには、通院中に定期的な検査を受けていただきます。主な目的は、治療薬による副作用が出ていないかを確認することです。副作用の種類は薬剤ごとに異なるため、必要な検査の内容も患者さんごとに異なります。基本的には、多くの患者さんで血液検査を2〜6か月ごとに行います。加えて、ステロイド治療を受けている患者さんでは、さまざまな副作用の可能性があるため、眼科受診(白内障や緑内障の確認)や骨塩定量検査(骨粗鬆症の有無や程度の評価)などの定期検査をお勧めしています。当院では、必要に応じて複数の診療科と連携しながら治療を行っています。