下肢の表在静脈内の弁が壊れて逆流・うっ血が起きると、皮膚直下に蛇行や瘤が確認されるようになります。「下肢静脈瘤」という血管の異常ですが、つらい症状が出ない場合には年齢や体質によるものと長年放置されてきました。しかし、近年登場した高周波 アブレーションカテーテル治療で「1泊入院で患者さんの QOL を向上できる」ことから全国的に手術症例数は増加傾向にあり、当院でも2014年に本格導入しています。
静脈を高周波で焼灼し閉塞させる
下肢静脈瘤治療の主流は、静脈に硬化剤を注射器で注入する硬化療法、弁の壊れた静脈を外科的に引き抜く静脈抜去術(ストリッピング手術)でしたが、近年になり高周波を使用する「血管内焼灼術」が選択肢の一つとして加わりました。この治療は、静脈内に挿入したカテーテルの先端部分にある約 7cmの金属コイルに高周波を流し発熱させて静脈を熱変性させ閉塞させる方法です。焼かれた静脈は数カ月で吸収され、その役割は別な血管が代行します。治療は軽い全身麻酔ないしは局所麻酔+静脈麻酔で行われ、両足で1時間から2時間程度。静脈弁の壊れた静脈だけを血管内から治療できるため、侵襲が少なく、術後の痛みもほとんどありません。傷口はカテーテルを挿入するための小さな刺入部のみです。
治療の要点
当院では血管外科治療を専門に行っている心臓血管外科医が担当します。高周波血管内焼灼術の最中に静脈瘤の性状が適さないと判断した場合には、静脈抜去術に切り替えることも可能です。他の静脈瘤があった場合は、真上を尖刃で切開して専用のフックを用いて瘤切除を行ういわゆるstab avulsion法にて治療します。 切開創は非常に小さく目立ちません。
治療後の合併症
稀に起こる重大な合併症に深部静脈血栓症(エコノミー症候群)があります。足を長時間動かさないことが原因ですが、手術後にエコー検査を行い血栓の有無を確認します。万が一の場合の抗凝固療法も確立されています。手術後はすぐに歩行可能ですので(術後早期の歩行開始が血栓形成予防につながります。)、退院後はこれまで通りに旅行や散歩などを楽しむことができます。
人生のQOLを向上させるための治療です
下肢静脈瘤は命にかかわる病気ではありませんが、自然治癒もしません。足がだるい、痛いと思いながらも、何十年も経過してから受診される患者さんがほとんどです。妊娠や分娩を経験した女性だけでなく、立ち仕事を長年続けてきた男性にも発症します。高齢になり下肢の筋力が弱くなると症状が強くなり、筋力や体力の低下につながります。潰瘍ができたり、感染を起こしたりするケースもあります。 しかし、「もう高齢だから無理しない方がよい」 との誤解から治療への理解が進んでいませんが、「体 への負担も痛みも少ない治療」だからこそ、高齢の方も安心して受けていただけます。また、「自分の 足で無理なく歩ける」というメリットが「人生の QOL 向上」につながります。当院で治療を受けた最高齢者は89歳。「足が軽くなりました。これで孫との外出を楽しめます」と笑顔で退院されました。